「季節風」掲載書評

written by 越水利江子

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ファンタジーの豊饒
              
『真実の種、うその種』
       他ドーム郡シリーズ全三冊
             芝田勝茂・作
    小峰書店

 世は『ハリーポッター』や『ナルニア国』
がもてはやされている。どちらも読めば面白
いし、この機会に、児童文学を手にするこど
もや大人が増えるのは結構だとも思う。
 だが、一方で、日本古来の伝承から生まれ
た『雨ふり花咲いた』末吉暁子や『狐笛のか
なた』上橋菜穂子といった情感豊かで瑞々し
いジャパネスク・ファンタジーにも光をあて
てほしい。山紫水明の列島に生まれ、独特の
空気感と繊細な感性を持った民族が、欧米の
翻訳ファンタジーだけにうつつをぬかすとい
うのも寂しいではないか。
 だが、できることなら、この国の自然、文
化の豊饒に深く根ざしながら、見たこともな
い異界異国へ一気に飛び立たせてくれるファ
ンタジーを読んでみたいと思っていた。その
点で、ドーム郡の三部作は日本固有の歴史や、
古典文学、自然観に根ざしていながら、それ
を読者に感じさせない手並みは鮮やかである。
 一話『ドーム郡ものがたり』の少女クミル
は、人の心のすべての善きものを凍らせる魔
の花フユギモソウの謎を追い、伝説の男を探
して果てのない旅に出る。
 二話『虹への旅』では、嘘つき少年マリオ
が勃発した世界戦争を終結させるため、行方
不明の王女ラクチューナム・レイを探す旅に
出る。
 三話『真実の種、うその種』では、枯れ果
てたはずのフユギモソウが甦り、その恐怖の
種を捨てる旅に出た踊り子テオの物語である。
 三部作とも恋あり冒険あり、旅先には思い
も寄らぬ不思議が待ち受けている。それぞれ
が独立しているので、どこからでも読める。
 物語全体は、作者の一本筋が通った哲学で
貫かれ、人間の弱さ、おろかさを徹底的に暴
く。だが、その先にある希望をも、くっきり
と描いて見せるあたりに、作家芝田勝茂の人
と自然に対する眼差しが現れていると思う。
 この作品、本年度、児童文芸家協会賞を
受賞された。
 心からおめでとうをいいたい。


こどもが待ちかねる本


『妖界ナビ・ルナF青き龍の秘宝』他六冊
             池田美代子・作
            岩崎書店

 竜堂ルナは捨て子だった。
 だが、ただの捨て子ではなかった。妖怪と
人間の間に生まれた半妖であった。運命の時
来たり、ルナのうなじに封印された第三の目
が開く。覚醒したルナは妖怪もっけとスネリ
に出逢い、共に旅立つ。人間界で暗躍する悪
い妖怪と対決し、彼らを妖界へ連れ戻すため
に……。と、こどもたちがワクワクして発売
を待ちかねるこのシリーズは売り上げ六十万
部を突破。こども自身の手によるベストセラ
ーとなった。が、なぜか、この本は書評や評
論に取り上げられない。こどもが熱い声援を
送る本がなぜ評論対象にならないのだろうか。
 本の評論とは一冊の本から時代を切り取る
ものではなかったか。とすれば、この時代に、
この本は外せないのではないか。むろん、肯定
的にとらえるか否定的にとらえるかは評論者
の裁量だが、まな板の上の作家の一人として、
この機会に言わせて頂く。
 どの作家の本であれ、もし否定的な評論を
展開するのであればあるほど、開かれた視点
のもとに論を展開して頂きたい。個人の価値
観だけで語るなら、それは評論ではなく感想
でしかない。作家は皆、命を削って書いてい
る。書くという一点では評論も同じだろう。
 ぜひ真剣勝負と臨みたい。
 ともかく、この物語は分かり易い筋運びに、
可愛いキャラ、冒険とファンタジー、事件や
謎が散りばめられ、主人公のルナはまっすぐ
の正義感で困難に立ち向かっていく。このま
っすぐがいい。展開が大人の目に単純に映っ
ても、このまっすぐさこそがこどもの血を熱
くし、こどもの心を育てているのではないか。
 一方で、半妖や第三の目といえばコミック
の「犬夜叉」や「遊戯王」が思い浮かぶが、
元来、物語に百%オリジナルは存在し得ない
のだから、そう目くじらを立てることもない。
 作家とは、古い地層から遺跡や化石を掘り
起こし、それらに新たな命を吹き込む能力、
その手業の持ち主をいう。こどもだけが楽し
む本があっていいではないか。