青葉闇 01/6/24 京都新聞 越水利江子 植物にはこころがある。 いや、どうやら本当にあるらしい。 それも、人間より遥かに進化した心があるようだ。 幼い頃、年寄りの大きな木に寄りそいホッとした覚えはないだろうか。 道端でふっと足下を見ると、可憐な花が「踏まないで…」というように風に揺れていたことはないだろうか。 それは、あなたと植物の心が通じた瞬間であるかも知れない。 「また少女趣味な」とおっしゃる頭の堅い向きには、この二冊の本をお薦めする。 『熱帯雨林からヤッホー!』八束澄子(新日本出版社)と、『植物は考える生きもの!?』野田道子(PHP)。 児童書と侮るなかれ。言葉はやさしいが、内容は目から鱗の連続である。 『熱帯雨林…』は、マレーシアのランビル国立公園の森が舞台。 ここには、常識を覆すとんでもない植物が押し合いへし合い生きている。 歩く木ウォーキング・パームは、周りの木が茂り日照が悪くなると「どれ、こっちへ行ってみるか」と根っこをのばし本体が移動する。 身をよじったようなつるつる肌の木はヌードの木。フトモモ科ヌメリハダ属…冗談みたいな学名である。 この木が服(樹皮)を脱ぐのは、つる植物に巻きつかれぬため。 他の木に寄生するしめ殺しの木は、大きくなるとじわじわ宿主の木をしめ殺してしまうというから、森はもう、ミステリードラマみたいな騒ぎである。 圧巻なのが、これらの木という木が一斉に花をつける一斉開花。 四、五年に一度見られるこの現象は、森の木々の子孫繁栄のための知恵。 何年もかけて力を養い、皆で「せいのっ」と花を咲かせる。 すると遠くの森からも受粉を助けてくれる昆虫や生き物たちが「なんや、なんや」と寄ってくるという按配。 この森の年齢は一億歳。だが、植物の歴史は二十一億年。 対して人間はたった四百万年。 さ、人間が植物より優れているという考えはあっさり捨てよう。 一方『植物は考える…』の中で、証明されてゆくのは「植物は迫りくる危険を感じる」「植物は見たことを覚えている」「植物は会話し、愛に応える」という事実である。 どう証明されるか。それは読まれてのお楽しみとしよう。 さて、まもなく盛夏。 青葉闇の下では心と耳を澄ましてみよう。 共生すべき尊き存在の声が、きっと聞こえてくるはずだから。 (童話作家) |