書評 01/10/23 産経新聞 『おれたちゃ映画少年団』 作 横山充男 絵 古味正泰 文研出版1300円 男の優しさがしみる本 この本は、四万十川物語シリーズ『光っちょるぜよ! ぼくら』『少年たちの夏』に続く三作目。 物語の舞台は、1964年、高知、中村市の四万十川のほとり。 __ ぼくとかっちゃんは、映画を見にいく。むろんお金はない。 だが心配はいらない。なぜなら映画館の便所の窓は開いているのだ。 いつものように窓から忍びこむと、なんと転校生のすみれが男便所の掃除をしている。映画館の大人に言いつけられてはと、あわてふためくぼくを、かっちゃんが笑う。 「おまんは女心がわかっちょらん」 その日の夕方、ぼくは母さんにたずねた。 「女心いうがは、どんなが?」 「女心はガラスみたいなもんながよ。すぐこわれるけんねえ」と母さん。ますますわからない__ このぼくとかっちゃんが、町の映画館存亡の危機に立ち上がる物語。その背景に、女優くずれのすみれの母、路上芸人のべーやん、戦争で息子を亡くしたヘゴ婆など、つらすぎる人生を呑みこんで生きる大人たちが登場する。 四万十川の伏流水のように、少年たちの泣き笑いの底に、時代を生きる大人たちの暮らしがひたひたと流れている。ぼくとすみれの出会いと別れ。もう若くはないべーやんの命さえけずる恋。 それらを抱きとって、いやすように、しみとおる優しい視線が全編に満ちている。 父と子、または母と子が共に楽しめる本。(小高学年から) 児童文学作家 越水利江子 |