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椎葉(しいば)珍道中
  
                            越水利江子
 
 だれのせいか。
 それを考えるとわからなくなる。
「椎葉まで行くのに、とりあえず博多まで新幹線の切符買ったのね。いいわよ。それで。あとはどうなと、いきあたりばったりで行けるわよ。あたし、いつもそうだもん」
といいきったのは通称、巫女さま(作家)。
「そ、そうか。いきあたりばったりでも行けるんや」
と、胸をなでおろした私(通称、小梅。作家)である。
「わたし、はっきりいっておくけど、こういうの自信ないからね。旅行の行程を調べるとかチケットとるとか、全然だめやからね。がんばるけど、何があるか知れないから覚悟しといてね」
と念を押したのに
「そうなんですか。でも、小梅ちゃんにお願いしていいですか」
といったのは通称ゆうこちゃん(カメラマン)。
 さすがに、巫女ちゃんほど勇敢になれない私は、その後の行程を調べたら、椎葉へ行くには小倉で日向線に乗換えとわかった。そのチケットは巫女ちゃんが買ってきてくれた。
 
 さて、当日。
 私の乗ったタクシーは渋滞につかまって、普通なら30分の距離を1時間以上かかって京都駅に到着。 乗る予定の「のぞみ」は発車直前。
 駅員さんは「はやくいって!」と叫んだ。
発車時間の数十秒前にホームに駆け込む。
「ひかり××号。東京行、発車します」というアナウンス。
つまり、ホームを間違えていたのである。

 これで、博多行のぞみにすっかり乗り遅れてしまった。
 急きょ、新大阪にいる巫女ちゃんの携帯に電話。
 京都から乗ってるはずのゆうこちゃんを新大阪でつかまえてくれるように頼み、次のひかりに飛び乗った。
 新大阪で、巫女ちゃんに会うと、
「いないのよ、彼女。車内の指定席まで行って、見たんやけど」
と、巫女ちゃん。
 仕方なく、新大阪からひかりの自由席に二人で乗る。
「ゆうこちゃんの乗ってる新幹線に電話できひんのやろか」
と私。
「車掌さんにきいてみよ」
と巫女ちゃんが立っていった。
 しばらくして、巫女ちゃんが「わっはは」と笑いながら帰ってきた。
「あはは。あたしったら『こだま○○号に乗ってる友だちに連絡したいんです』なんていったの。車掌さん『こだまに、そんな番号はありませんが』っておっしゃるのに、『いえ、ぜえったい! こだまなんです』とかいっちゃって。チケット調べたらのぞみだったわ。あはは」(おい)
「それで、連絡は?」
「うん、車掌さんが、あっちの車掌さんに電話してくれて、あっちの車掌さんが『博多の改札で待っていてくれるように』って、ゆうこちゃんまで連絡してくれるそうよ」
 私は胸をなでおろした。 車掌さんが連絡してくれるなら、巫女ちゃんが連絡するよりずっと安全というものである。
 だが、問題はまだあった。
「ところで、巫女ちゃん。うちらの乗ってるひかり号。今、アナウンスでいってたけど、博多の前に小倉に止まるんやて。つまり、うちらの持ってるチケットは『のぞみ』で行き過ぎの博多まで行って、また『ひかり』で小倉へもどってきて、そこから日向線に乗り換えるっちゅう、とんでもない切符なんやけど…」
「あ〜ら、そうなの。あっははは」
「おまけに、小倉で降りたくても、ゆうこちゃんが博多まで行ってしまうわけやから、降りられないってわけ」
「あら、まあ」
 巫女ちゃんは一瞬キョトンとした後、豪快に笑った。
「こういうこと、きっとあると思ってたのよ。でも、こんなにのっけからなんて、わっはっはっはっは・・・・・・・」
 巫女ちゃんは、果てしなく笑いつづけた。

 かくして、私と巫女ちゃんは、ゆうこちゃんと無事、博多で合流。
「ところで、ゆうこちゃん。なんで6号車の指定席に乗ってなかった?」
きいてみると、
「え! 6号車? 11号車じゃなかったですか!?」
と、ゆうこちゃん。
「ええっ」
 驚いた私と巫女ちゃんは、3人分揃って買ったはずのチケットを見た。
 指定席は間違いなく新大阪発のぞみ6号車。
「あ!」
 ゆうこちゃんがさけんだ。
「わたし、京都からなんで、チケットを京都からに買い換えたんです。
そのとき、まさか指定がかわってると思わなかったもんで、11号車だとばかり思って…」
「ええっ。じゃ、6号車に乗ってなかったの! そんなんで、よく連絡がついたねえ!」
 こんどは、巫女ちゃんがさけんだ。
「実は、乗ってしばらくして、小梅ちゃんも巫女さんもいらっしゃらなかったので車掌さんにたずねてみたんです。そのときは、何の連絡もないっていわれたんですけど、後で、お二人からの連絡が入って…」
 さすがに、私と巫女ちゃんとゆうこちゃんは、お互いの顔を見合わした。
「よくぞ…よくぞ、無事に出会えたもんや。これは奇跡や…!」
 巫女ちゃんの目も、ゆうこちゃんの目もそういっていた。
 神楽の神様のお導きに違いなかった。こんだけ揃ってドジっておいて、無事に会えるなんてすごすぎる。
 私たちは行き過ぎた町、博多駅で、気の早い達成感に酔っていた。
 だが、しかし、椎葉までの道程は、まだ7時間あった……

                      つづく(いや、つづきたくない・・・)