夜店布団(よみせぶとん)
             02/9/15 京都新聞
                      越水利江子


 
今年は、台風がよくやって来る。
梅雨頃の台風に始まって、この秋も各地で被害をおよぼしている。
今後、深刻な災禍のないことを祈りたい。
とはいえ、こどもたちに台風の思い出を聞くと、これが驚くことに楽しい思い出が多い。それは、むろん、こどもたちの身近に人的被害がなかったからである。
だから、この話は、台風がそばを通って無事だったときの話として聞いてもらいたい。

 私がこどもの頃、台風でお祭りの夜店が中止になった。
すると、家の中で「よみせや、よみせや」という呼び声がした。
みると、父が仰向けに寝転がり、両手と両足を四本柱にして、夜店のテントのように掛け布団を持ち上げていた。
 父は手足をグラグラさせながら「えらいこっちゃ。風で飛ばされそうや。おさえてくれえ」という。
私は、夜店になった父のお腹にしがみついた。
すると、今度は「台風や、台風の風やっ。うわっ、テントが飛ばされたあ」という声と一緒に、ドサンと布団が落ちてきた。

 そのスリル、ドキドキは、今でもはっきり覚えている。
布団からはい出し、何度も、同じ遊びを父にねだった。
 その夜店布団遊びを、私の娘や息子もおじいちゃんにしてもらった。
この子たちも、もう声が出なくなるくらいキャアキャアいって夢中になった。

 こんなに楽しい遊びを、私たち家族だけで一人占めしてはもったいない。
そう思って、私は夜店布団遊びを絵童話の本にした。
すると、今度は読者の親子が夢中になった。
どうやら、台風、夜店、お布団のアイテムは、時代を越えてこどもたちに受けるらしい。

 この
『よみせぶとん』(新日本出版社の読者からは、今でも、続々と台風の思い出話や親子体験記が寄せられる。
遊びの写真をホームページにアップしてくれた人もいる。

「我が家で、よみせぶとん遊びをすると、こどもが三人いっぺんにお腹へのってきて、私はもう腹筋がぼろぼろです。でも、こどもの喜ぶ顔を見ると、ついやってしまいます」というのは、小柄なお母さんのお便り。

 台風はこわい。でも、待ち遠しいというのが、こどもの正直な気持ちかも知れない。
「台風が来るとね。ローソクつけるんだよ。トイレもローソクだぞう」
 こどもたちは怖がりながら、ワクワクを楽しんでいる。
        (童話作家)